その533 肉声 2023.5.9

2023/05/09

 朝ドラ「らんまん」のモデルになった牧野富太郎博士のラジオ出演の声を聞いた。
NHKに音源が3本だけ残っているそうだ。
高知県佐川町出身、若い頃に東京へ出たのでアクセントは東京言葉だし、
88歳、91歳の録音とは思えぬ早口。
音源を放送した番組の伊集院光氏は「江戸の香りのする話し方」という。
 
 しかしその中に時々、土佐弁が混じる。
「ちさい時から(小さい時から)植物が好きで、、、」
「(標品が)ほったらかしになっておったのがが整理できるようになって、、」
「(標品は)五万、(後ろから女性の声が五十万とささやく) いや五十万ばあ、ありゃあせんかと、、、」
「整理をしたら、こんどらその家(標品館)が要ることになる。」
音圧をしっかりかけて明瞭な言葉で、語尾まで言い切る話し方は、ベテランの先生のようだ。
 
 自分の標本については「しっかりと作ってあり」、
新種の発見、発表についてもその珍しさをはっきりと語る。
胸を張って誇らしげであるが決してひけらかすではない。
 
「好きなことをやってきたので大変でも苦労でもなかった。
植物をやっていると優雅な心、人を慈しむ心になる。
心を豊かにしていることが長生きの元になっている。」と言われる。
 
 スパーっとやりたいことをやり切った人のさわやかな語り口。
こんな人に私もなりたい。と思うが、
周りを気にしたり迷惑をかけないようにと考えていると、
なかなかこうはいくまい。
 
 これからドラマは東京編。
実家の造り酒屋のことは考えながらも、やりたいようにやれた佐川時代と違う社会に突入する。
どのように描かれるか楽しみだ。
 
 ドラマの土佐弁のことで一つ言えば、
万太郎の姉が、酒造りの杜氏を訪ねていったシーンがあった。
それを振り返って語る時に
「愛らしい奥さんがおって」と字幕では出た。
しかし、セリフは「愛らしい」ではなく、「かいらしい」ではなかったか。
「かいらしい」はかわいらしいの意味だが、
もっと強く、抱きしめたいほど、といった意味がある。
英語ではたぶん”so cute!”という感じだろう。
土佐弁を知りつくしたセリフだと思う。